5月に雨が降ると、私は自ら命を絶とうと考えたことを想い出す。
 「アカン!もう、もたない。」
 もう、妻子を守ることができない。
 たとえ思考が働かなくなっても、私の体ひとつあれば、妻子を守ることができると想った。
 私の考えは楽観すぎた。
 その私の体が怖さで怯えている。
 そして、すでに疲れきっていた。
 自分のことで必死だった。
 いつしか、初めて死ぬことを考えていた。
 もう、守れない。
 でも、妻子だけは何とかしなくては・・・
 唯一浮かんだ答えは、妻子を逃すこと。
 私は、私たち家族が大切にしている想い出のものを勝手に売ったお金と、友人から借りたお金を妻に持たせた。
 「たのむ!逃げてくれ!」
 せめて妻子だけは助けたい私の精一杯の想い。
 私自身に起きていることで、妻子に心配をさせたくない想いで相談できなかった。
 私は、ひとりぼっちになろうとしていた。
 死ぬことだけを考えて・・・
 しかし、妻子は逃げてくれなかった。
 先立つものなんて無い、私なのに・・・
 5月の雨は哀しくなる。
 だから、嫌い。

Kazu


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