以前の面会から、一か月以上、時間が空いてしまっている。この日の伊藤は、袖をまくりあげたシャツ、半ズボンといういでたちだった。髪がやや長く伸びているところを見ると、以前面会した時から、散髪できていないようだ。
 まず、ブログについての打ち合わせ、事件について若干の会話をした。その後、伊藤自身も忙しい、という話になった時
 「忙しいという言葉は嫌いです」
 ぽつりと口にした。
 「忙しいって、心が亡くなると書くじゃないですか」
 これまでの面会でも、私の仮名案について、「悪人のように思えてしまう」と口にしていた。言葉の響きに、強いこだわりを持っているようだ。
 そして、自分が書きたいと思っている本のことについて切り出した。
 伊藤は、数十枚の色紙に絵を描いて、絵本を作ろうとしていた。色鉛筆と染料を用いて、絵を描いたらしい。赤、緑といった鮮やかな色で、動物や文字が描かれていた。
 足りない色もあったのではないか、と私が訊ねると、「自分で作った。塗装をやっていたから、その色とどの色を混ぜたら、何ができるかは知識があってね」と答えた。
 なんとか、これを本として出版したい様子だった。しかし、状況は芳しくないようだ。本として出版が無理だった場合、大道寺幸子展のようなものに出品してはどうか。そう尋ねると、これについては本以外の形で出すつもりはない、と答えた。最終的には、インパクト出版会にも相談してみるつもりのようだ。
 松原は上告を棄却されてしまい、伊藤にとって厳しい状況である。伊藤もそれを理解しており、だからこそ、生きた証として本を残したいと考えているようだ。また、苦労をかけている妻子に、少しでもお金を残したいという思いも口にした。
 その後は、散漫な話をしていると、面会時間の終了が告げられた。伊藤は「気を付けて帰って」と私に労いの言葉をかけ、手を合わせて私を見送っていた。