この記事では、真島事件の被告たちに与えられた「強盗殺人」という罪名について、書いていきたい。なお、強盗殺人の法定刑は死刑か無期懲役であるが、それよりも減刑することは可能である。
 伊藤和史と松原智浩の罪名、裁判結果は、以下のとおりである。

<伊藤和史>
犯行時・31歳
罪名・強盗殺人、死体遺棄。
求刑・死刑
一審・長野地裁。2011年12月27日、死刑判決。
二審・東京高裁。2014年2月20日、控訴棄却。
現在、上告中。

<松原智浩>
犯行時・39歳
罪名・強盗殺人、死体遺棄
求刑・死刑
一審・長野地裁、2011年3月25日、死刑判決。
二審・東京高裁。2012年3月22日、控訴棄却。
現在、上告中。

 伊藤の真島事件の起訴罪名は、強盗殺人、死体遺棄。宮城事件については、殺害には関与していないため、死体遺棄のみで起訴されている。松原は真島事件のみの起訴である。
 「強盗殺人」という罪名に、首をひねったかもしれない。伊藤たちは、利益を得るために、人を殺したのか?答えは、もちろん否である。被告たちは、被害者たちから日常的に暴力を振るわれ、労働を強いられるなど、犯罪被害にあっていた。当然、金父子に怒りと恐怖を抱き、自由を欲して、殺害を決意した。裁判所の判決も、それを認めている。例えば、伊藤の高裁判決では、以下の通りである。
 『被告人は、文夫親子から解放されて家族の下に帰るために本件各強盗殺人に及んでおり、金銭奪取を目的とする典型的な強盗殺人とは、異なる面がある』 
 なぜこのような動機であるにもかかわらず、罪名が「強盗殺人」となっているのか。それには、まず、強盗殺人という罪名について、説明せねばならない。

 強盗殺人と聞けば、「金を奪う目的で、恨みのない人を殺した事件」と考えるだろう。しかし、実際には違う。
 強盗殺人という犯罪は、利欲目的、怨恨を晴らす、といった動機と無関係に成立する。成立要件は、「人を殺害し、その殺害行為を手段として金品を奪う意図がある」というものだ。つまり、殺害前に、「被害者を殺害し金を奪う」という意図を抱いていれば、強盗殺人は成立するのである。例えば「恐喝された恨みから殺害を決意し、これまでの損害の埋め合わせとして、ついでに財布を奪うことを企図し、殺害を行った」という事件。この動機は恨みであり、利益目的ではない。それでも、強盗殺人は成立する。
 それでは、伊藤たちは、自らが無給で働かされ、搾取された埋め合わせに、金を奪おうとしたのか?それも、否である。結果的に金銭を分配したが、伊藤と松原は、金を自分のために使おう、とは犯行前には考えていなかった。金を奪おうと考えた理由は、「被害者」たちの死体遺棄と関係があった。
 伊藤は、取引相手だった斎田に、金父子の死体遺棄を依頼した。斎田は金父子から被害を受けていなかったが、報酬目的に、死体遺棄を引き受けた。そして、伊藤に200万円の金銭を要求した。もちろん、金父子から搾取されていた伊藤に、そのような金はない。どこから金を工面するか。松原と話し合った結果、金父子が所有する金銭から、報酬に必要な分だけとることとした。そのため、「殺害の際に金銭を奪う意図があった」とされて、強盗殺人とされてしまったのである。
 伊藤たちは金銭を欲していなかったが、金銭を欲して犯行に関与した唯一の人間が、斎田であった。
 金父子は闇金であり、真島の家には隠し金庫もあった。金がほしければ、徹底的に家探ししても不思議ではない。しかし現実には、物置と文夫のバッグから、461万円を奪ったのみである。そして被告たちは、そのほぼ半額である200万円を、斎田に渡している。

 それでは、伊藤を減刑することは不可能だったのか?
 強盗殺人の法定刑は、死刑か無期懲役である。この点だけでも、伊藤を無期懲役にすることに、法律上の障害はない。しかも、刑法66条により、情状を酌量し減軽することが可能だ。また、伊藤は自首が成立しているので、法律上も減軽が可能である。情状酌量だけで、死刑を選択したうえで懲役10年、あるいは無期懲役を選択したうえで懲役7年まで減軽することができる。理屈上は、伊藤は懲役3年6か月まで減軽が可能ということになる。
 情状により、刑を減軽された「強盗殺人」も存在する。被害者1名の強盗殺人で、懲役8年に減刑された事件である。これは、「被害者」の犯罪被害にあっていた事例だ。典型的な利欲目的の強盗殺人でも、自首の成立、果たした役割の程度により、有期懲役に減刑された事件は、数多い。
 このように、裁判官が真島事件の実質を認識し、それを判決に反映すれば、無期懲役や有期懲役に減刑することも、十分に可能であった。